LITALICOは2023年12月、米国現地法人を通じて、知的障害・発達障害のある方向けのサービスを展開する米国Developmental Disability Center of Nebraska, LLC(以下、DDCN。ネバダ州)を子会社化することを決定しました。今回の子会社化により、LITALICOは米国における障害福祉サービスの知見・ノウハウを獲得し、国内外での事業拡大を目指す方針です。本記事では、この買収がどのような背景・目的のもとで行われ、どのような成果が期待されるのか、さらに今後の展開などを詳しく解説いたします。

まず、LITALICOは日本において障害者就労支援を中心的な事業として展開しています。また、児童発達支援や放課後等デイサービス、さらには学習塾・教室運営など、多岐にわたる教育・福祉関連サービスを手がけてきました。高齢化や労働力不足が課題とされる日本社会において、障害者が活躍できる場を広げる取り組みは年々ニーズが高まっているといえます。LITALICOはそうした社会課題に対応する企業の代表格として成長し、障害の有無にかかわらず個々の能力を最大限に活かせる社会の実現を目指しています。

一方で、障害福祉分野は世界的にも注目が高まっている分野です。特に先進国を中心に、高齢化の進展や経済・社会的ニーズの変化に伴い、障害をもつ方の就労や生活支援、または学習支援のニーズが高まっています。欧米では障害者の自立支援モデルが確立されてきた歴史が長く、グループホームなどの運営手法には豊富な経験と実績があります。日本でも近年、こうしたグループホームの仕組みづくりや運営ノウハウの普及が課題とされており、そのノウハウを学ぶことは国内でのサービスの拡充にも大きく寄与すると考えられます。

そうした背景のなかで、LITALICOはDDCNを2024年6月26日付で子会社化する予定です。DDCNは2015年に設立され、米国の中西部にあるネブラスカ州オマハを中心に事業を展開しています。オマハはネブラスカ州の最大都市であり、米国中西部の主要な経済・産業拠点として発展してきました。DDCNは知的障害や発達障害のある方向けにグループホームを17拠点(2023年12月時点)運営しており、住まいや日中活動の場を提供しています。こうした生活支援サービスは、利用者が地域社会での暮らしを継続しながら自立を促すうえで大変重要な役割を担っています。

今回の買収額は約46億3200万円とされており、DDCNの売上高は40億8000万円、営業利益は14億5000万円、純資産は12億1000万円という財務指標が公表されています。LITALICOがDDCNを子会社化することで、米国で培われてきた障害福祉サービスの経験や技術を学ぶだけでなく、DDCN自身の成長余地を日本国内のノウハウで後押しすることも期待できます。日米それぞれの強みを活かし合うことで、より質の高い障害福祉サービスの提供が可能になると考えられます。

DDCNはグループホームのほかにも、利用者の日中活動をサポートするプログラムの提供など多角的なサービスを展開しています。同社の運営方針には、利用者一人ひとりの尊厳を尊重し、その人に合った支援を行うという理念が根付いています。利用者が地域社会での生活を楽しみ、自立して暮らしていくためには、住居の確保や就労支援、余暇活動への参加など多面的なサポート体制が必要です。DDCNが展開するグループホームは、利用者が職場や学校、さらに社会活動に参加するうえで拠点となる場を提供しています。そこではスタッフが日常生活全般のサポートをしつつ、利用者の自己決定と主体性を尊重したケアを行うことで、障害のある方々の可能性を広げる取り組みを積極的に進めています。

LITALICOはDDCNを傘下に収めることで、米国の障害福祉サービス市場へ本格的に参入する足がかりを得ることになります。日本国内では人口減少や少子高齢化といった構造的な課題を抱える一方、米国には世界最大規模の経済力があり、障害者の支援制度や資金調達の仕組みも日本とは異なった発展を遂げています。日米でのサービス提供を比較検討しつつ、それぞれに合ったベストプラクティスを見出すことは、LITALICOのさらなる成長戦略上、極めて重要なポイントになり得ます。また、すでに日本国内で培ってきた就労支援や教育支援に関するノウハウを、米国の拠点に展開していくことで、DDCN内のサービスの幅を広げ、相乗効果を生み出すことも期待できます。

さらに、LITALICOはこれまで積み上げてきた知見をもとに、障害のある方の就労や教育支援だけでなく、テクノロジーを活用した新しいサービスの開発にも力を入れています。たとえばオンライン学習サービスや、コミュニケーションをアシストするアプリの導入など、ITを取り入れることで支援の効果を高める事業領域があります。障害福祉の現場では、IT・デジタル技術導入による業務効率化や、利用者の意思疎通の向上などが期待されるため、DDCNのグループホーム運営にもこれらの手法が取り入れられる可能性がございます。

このように、DDCNの子会社化はLITALICOの海外進出の大きな一里塚となるだけでなく、日本と米国それぞれの市場特性を活かした新しいビジネスモデルの確立にもつながると考えられます。障害福祉サービスについては国や地域ごとに制度が異なり、対象となる人々の課題や社会背景にも多様性があります。そのため、海外事業を展開する際には、現地の法制度や文化に精通したパートナー企業との連携が欠かせません。DDCNはネブラスカ州という、比較的密接な地域コミュニティが特徴とされるエリアで事業を展開しており、そのネットワークを活かしていくことで、地域社会に根ざした支援サービスを充実させることが見込まれます。

また、障害福祉サービスを提供する企業としては、利用者とともに長期的な関係を築くことが重要です。そのためには企業としての経営基盤の安定が求められます。LITALICOの財務基盤とDDCNの現地での実績・ノウハウを組み合わせることで、利用者が安心してサービスを利用できる環境を強化できるでしょう。国内外の拠点で培った知見を共有しながら、サービス品質の標準化やスタッフの育成にも注力することで、より包括的で質の高い支援が実現することを期待します。

今後は、LITALICOがDDCNの子会社化を完了する2024年6月26日に向けて、統合プロセスが進められていく見通しです。その際には、各国の法令遵守に加え、スタッフ間のコミュニケーション円滑化や事業運営方針のすり合わせなど、多くのタスクを丁寧に進める必要があります。サービス利用者やその家族が安心して利用を継続できるように、現場における混乱を最小限に抑えつつ、シナジー効果を最大化することが求められます。それぞれの現場スタッフへの研修や情報共有の仕組みづくりは、企業統合の成否を左右する非常に重要なポイントです。

さらに、DDCNが拠点を置くネブラスカ州から周辺地域への展開、あるいは他の州への新規進出など、今後のビジネスチャンスは大いに見込まれます。障害福祉サービスの需要は、米国全体で見ても数多く存在し、州ごとに違った制度や地域特性を有しています。LITALICOとDDCNが協力して成功事例を積み重ねることで、他の地域にも効果的なサービスモデルを広めることができるでしょう。また、日本国内においても、DDCNのノウハウを逆輸入する形で、新しいプロジェクトやサービスを生み出すことが期待されます。とりわけ、グループホームの運営や地域との協働のあり方については、日本が学ぶ余地が大きいと考えられます。

最終的に、LITALICOがDDCNを傘下に収めることで得られるメリットは、海外進出による事業拡大だけではありません。米国の障害福祉サービスの先進事例を取り込むことにより、日本国内の障害者支援ビジネスにも革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。障害のある方の社会参加を促進するためには、生活だけでなく就労・教育・医療との連携が不可欠であり、これらをどのように体系的に構築していくかが世界各国の課題です。LITALICOはこれまで実績を積んできた就労支援や学習支援を軸に、今回の買収を活用して総合的な支援体制を整備し、政策提言や社会へ向けた啓発活動などの面でもリーダーシップを発揮する可能性があります。

まとめますと、LITALICOによるDDCNの子会社化は、約46億3200万円の投資を伴う大規模な戦略的買収であり、2024年6月26日に予定されています。DDCNはグループホームを中心とした事業を展開しており、ネブラスカ州オマハを拠点に幅広い支援サービスを提供しています。この買収によりLITALICOは、米国における障害福祉サービスのノウハウ取得と海外事業の入り口を手にすると同時に、DDCNに対して日本の就労・教育支援ノウハウを提供することで、サービス拡充を図る絶好の機会を得ることになります。両社のシナジーにより、日米双方でより一層充実した支援モデルが確立されることが期待されます。これにより障害のある方が自己実現と社会参画を果たせる環境づくりが、国境を越えて加速していくことになるでしょう。