LITALICO(リタリコ)社が、東京都豊島区に本社を置くnCS(エヌシーエス)社の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。nCS社は機能訓練特化型のデイサービスを中心に事業を展開しており、売上高18億3000万円、営業利益1億6500万円、純資産1億6900万円という事業規模を誇ります。今回の買収額は8億5000万円で、取得予定日は2023年1月26日となっています。これにより、障害福祉分野で就労や学びを支援するサービスを主力とするLITALICO社の事業が、さらに介護分野へと拡大することが期待されています。本記事では、本件の背景やねらい、関係企業が提供するサービスの特徴、そして今後の展望について、約3000字にわたって詳しく掘り下げてまいります。
まず、今回の買収を決定したLITALICO社は、主として障害福祉分野での就労支援や学習支援サービスを手がけてきた企業です。たとえば、就労移行支援や放課後等デイサービスなどを展開し、多様な障害特性をもつ方々に対し、それぞれの能力を生かせるような学びや働き方の場を提供しています。社会的な意義も大きく、利用者からの評価は高いとされます。近年では高齢化が急速に進んでいる日本社会において、障害福祉と重なる部分のある介護分野への進出や強化にも注力していました。障害福祉サービスと介護サービスの接点や、互いのノウハウを活かせる領域が大きいと判断したことから、介護分野での実績ある企業との連携や買収を通じて、事業領域をさらに広げようという戦略に踏み切っています。
一方、今回子会社化されるnCS社は、2009年に設立された比較的新しい企業ですが、機能訓練特化型デイサービスとして「リハビリデイサービスnagomi」を中心に大きく成長してきました。東京都内を中心としながらも、全国に向けて店舗網を拡大しており、「リハビリデイサービスnagomi」と「リハビリデイサービスnagomiプラス」という2つのブランドを合わせて114店舗(103店舗+11店舗)を展開しています。さらに、訪問入浴介護事業である「リハビリ訪問入浴nagomi」(2事業所)も運営しており、高齢化社会のニーズが高まるなかで利用者が増加傾向にあります。機能訓練特化型デイサービスは、一般的なデイサービスとは異なり、運動機能や身体機能の維持・回復を重点的にサポートするプログラムが特徴です。利用者が要支援や要介護の状態であっても、可能な限り自立した生活を続けるためのリハビリテーションを中心としたプログラムを実施していることから、利用者やその家族にも好評を得ています。
デイサービス業界全体を見ても、高齢化の進展に伴い、サービス形態の多様化や地域包括ケアシステムへの対応がますます求められています。単に日中の介護や生活支援を行うだけでなく、機能訓練や認知症予防プログラム、栄養管理や口腔ケアへの取り組みなど、個々の利用者のニーズに合わせた多角的なケアが重要になっています。nCS社のような機能訓練型サービスを強みとする企業は、利用者一人ひとりの身体機能を維持・向上させることを目的としたサービスを提供しており、介護給付費を抑制する効果やQOL(生活の質)の向上にも貢献できると考えられています。また、国としても医療費・介護費の負担削減を目的の一つとして掲げているため、このような機能訓練特化型デイサービスは、より注目を集め続ける可能性があります。
今回のLITALICO社によるnCS社買収の背景には、こうした機能訓練特化型デイサービスへの需要の高まりがあると推察されます。LITALICO社は障害福祉の分野で培ってきたノウハウや、福祉事業における運営・支援の実績を活かし、nCS社が運営する施設を活性化することで、両社のシナジーを最大化していく狙いがあると思われます。とくに、障害福祉と介護福祉の領域はサービスの種類や対象者は異なるものの、現場で求められるコミュニケーションスキルや、利用者の状態に合わせた作業工程の組み立て、スタッフの専門性向上など、多くの共通点があります。障害福祉分野で積み上げてきた就労支援の仕組みや個別支援計画作成のノウハウなどを、今後nCS社の介護サービスでも活かすことで、新たなサービス品質の向上が期待できるでしょう。
さらに、LITALICO社にとっては介護分野を強化するメリットも大きいと考えられます。日本社会の高齢化は既定路線であり、要介護人口は今後も増加すると見込まれています。厚生労働省の統計によると、介護を必要とする高齢者の数は年々増え続けており、施設・サービスの需要も拡大しています。こうした市場環境のなか、既に確立したブランド力と店舗運営の実績をもつnCS社を子会社化しリハビリ特化型デイサービスを取り込むことは、LITALICO社にとっては介護市場への大きな足がかりとなるでしょう。また、同社は障害児向けの学び支援などで培ったICT活用や個別指導・個別支援計画のノウハウなどを、適切に介護サービスへ応用できれば、差別化されたサービスを提供できる可能性があります。
一方で、買収後の課題としては、統合による組織文化の違いや経営体制の再構築が考えられます。特にnCS社は、これまでとは異なる経営方針や企業理念をもつLITALICO社の傘下に入ることで、企業カルチャーや意思決定プロセス、スタッフのモチベーション管理など、さまざまな調整が必要になるかもしれません。現場レベルでは、スタッフ同士の連携や研修体制の共有など、サービス提供体制を再構築するための経費と時間がかかる可能性があります。しかし、双方の強みを十分に生かしたスムーズな組織統合がすすむことで、これまでにない包括的な福祉・介護サービスが実現できるという期待も大きいです。
また、福祉業界全体の展望としては、少子高齢化にともない労働力不足が深刻化するなか、障害福祉と介護福祉のサービス提供の効率化や、テクノロジーの活用による省人化が重要なテーマになっています。LITALICO社は、就労支援の場面でもオンライン学習ツールなどICT(情報通信技術)の積極活用を進めているため、このノウハウを介護現場に横展開できれば、スタッフ負担の軽減や利用者情報の一元管理、プログラム内容の可視化・標準化など、サービス品質の底上げにつながる可能性があります。こうした取り組みは、利用者にも安心感を与えるだけでなく、スタッフの働きやすい環境づくりという点でも大きな効果が期待されます。
なお、LITALICO社の障害福祉サービスとnCS社のデイサービス事業を組み合わせることにより、リハビリを必要とする高齢者だけでなく、障害をもつ高齢者やその予備軍に対しても、きめ細やかなサービスを提供できるのではないかと考えられます。障害者高齢化という課題は今後さらに顕在化すると予想されていますが、両社が協力することで、障害特性や複数の疾患を抱えている高齢者にも対応しやすくなります。具体的には、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職の配置や、ITシステムによる利用者情報の共有によって、より個々の状況に合わせたサービスが可能となるでしょう。
買収後の具体的な展開に関しては現時点で詳細が明らかになっていない部分もありますが、LITALICO社の豊富な福祉事業経験とnCS社の機能訓練特化型デイサービス経験が生み出す連携効果は大いに期待されます。また、取得価額8億5000万円という投資規模も、LITALICO社が介護分野への進出を真剣に進める意思を示していると言えます。今後予定されている2023年1月26日の株式取得完了を経て、nCS社のデイサービス事業がどのように拡充されるのか、あるいは新しい事業モデルが創出されるのか、業界内外から注目が集まっています。
さらに、高齢者向けの「自立支援」「予防重視」といった実践的なリハビリサービスは今後もますます需要が高まると予想されます。そのなかで、障害福祉分野にも精通したLITALICO社が、nCS社を通じて質の高いリハビリ特化型サービスを提供できれば、業界の発展にも大きく貢献できるでしょう。高齢者が要介護状態になるのを遅らせることや、障害のある方が生き生きと暮らすための専門的ケアが同時に進められれば、医療・介護費の圧縮にもつながります。その結果、社会全体の負担の軽減と生活の質の向上を両立できる存在として、LITALICO社が新たなステージでのリーダーシップを発揮する可能性があります。
以上のように、LITALICO社のnCS社買収の背景には、高齢化社会が進展するなかで需要を増す機能訓練特化型デイサービスへ参入を強化し、同時に障害福祉で培ったノウハウを活かして総合的な福祉サービスを拡充するというビジョンがあります。nCS社の既存施設・サービスがLITALICO社の支援を受けることで、より充実した機能訓練プログラムやサービス体制を構築できるようになるかもしれません。利用者のQOL向上、スタッフの専門性向上、そして企業としての競争力の強化が期待されるだけでなく、双方の事業が融合することで、新たなサービスモデルを生み出し、社会に一層の貢献ができる機会となるでしょう。取得予定日の2023年1月26日を控え、業界では今回の買収がどのような成果を生み出すのか、またLITALICO社がどのように介護分野での存在感を高めていくのか注目が集まっています。