LITALICO(以下、リタリコといいます)が2021年1月31日付で、障害福祉施設向けソフトウェアを提供する福祉ソフト株式会社(以下、福祉ソフトといいます。所在地:長崎県佐世保市、売上高1億3900万円、営業利益556万円、純資産2690万円)の全株式を取得し、子会社化することを決定したことが発表されました。取得価額は10億5000万円とされており、リタリコはこれによって、障害福祉や介護福祉分野におけるさらに広範な経営支援サービスの展開を図る方針です。
リタリコは、障害のある方への就労支援サービスを中心とした福祉領域の事業を手がけています。具体的には、就労支援や学習支援など、多様な障害福祉サービスを全国的に提供し、障害の有無にかかわらず誰もが活躍できる社会を目指す姿勢を掲げてきました。一方、福祉ソフトは主力製品として、公費による障害福祉サービスの請求手続きを支援する「かんたん請求ソフト」を提供しています。この「かんたん請求ソフト」は、障害福祉施設向けとしては国内トップクラスの導入実績を持ち、また介護福祉施設向けにも「かんたん介護ソフト」という類似製品を展開しています。いずれもSaaS(ソフトウェアをサービスとして提供する仕組み)としてプロダクトを提供しており、必要な機能をクラウド上で利用できる手軽さから、多くの福祉施設で支持を得ています。
障害福祉施設や介護福祉施設においては、行政への請求手続きが必須であり、その処理は非常に煩雑になりがちです。特に公費での介護費用や障害福祉サービス費用の請求書類を整備する作業は、制度や規程の変更に合わせて常にアップデートが必要となるため、現場担当者にとって負担が大きい作業といえます。その負担を大きく下げ、効率化するのが福祉ソフトの「かんたん請求ソフト」や「かんたん介護ソフト」です。各種データの入力や書式の作成が容易になり、加算要件のチェックもシステム上で行えるため、事務作業の人的ミスを削減するメリットがあります。こうした機能面の充実や信頼感、さらに導入からサポートまで一貫した支援体制を提供している点が、多くの現場の評価につながっているのです。
今回リタリコが福祉ソフトを買収することによって、障害福祉サービスや就労支援サービスを主力とするリタリコの既存事業基盤に、新たにSaaSによるシステム提供分野のノウハウが加わります。リタリコとしては、福祉ソフトが長年培ってきた障害福祉・介護分野におけるソフトウェア開発やサポート実績を取り込むことで、利用者支援のさらなる効率化を図りたいと考えているようです。また、福祉ソフトの側としても、リタリコの広範な事業ネットワークや経営リソースを背景に、導入施設の拡充や新サービスの開発を推進することが期待できます。両社のシナジー効果としては、福祉施設向けのICT化推進が見込まれるでしょう。利用者や支援者一人ひとりの状況把握や記録管理を一元化し、必要な情報を必要なときに的確に活用するための基盤づくりが加速することが期待されます。
リタリコによる福祉ソフトの買収には、10億5000万円という比較的大きな投資がなされています。福祉ソフトの売上高は1億3900万円、営業利益556万円、純資産2690万円であり、数字の上では決して大企業とはいえない規模ですが、障害福祉施設向けソフトウェア市場や業界でのシェアには相応の価値があるという評価なのでしょう。市場の将来性、ならびに今後さらに拡張が期待できるデジタルトランスフォーメーション(DX)の観点からみても、福祉ソフトの事業領域には潜在力があると考えられています。特に高齢化社会の進行や障害福祉サービスニーズの多様化に伴い、事務作業のシステム化やデータ活用の高度化は急務となっているためです。
福祉施設業界は、これまでICT化が遅れがちな分野として認識されてきました。その理由には、現場のスタッフの人数やITリテラシーの問題、利用者一人ひとりへのきめ細やかなケアが優先されるがゆえにソフトウェア導入が後回しになりやすいといった事情があります。しかしながら、近年は業務効率化につながるシステムの導入に対する理解が加速しており、入力や記録作業の簡便化、省力化のメリットが強く求められるようになっています。さらには、新型コロナウイルス感染症の影響によってオンライン化や非接触・非対面型の業務オペレーションの必要性が急拡大し、施設側におけるクラウドサービス導入へのハードルも下がりつつあります。こうした背景環境とも合致する形で、リタリコが福祉ソフトをグループに迎えることは “まさに今” を捉えた動きとなるでしょう。
一方、経営面では、リタリコにとって福祉ソフトの買収は新たな収益源の確保だけでなく、幅広い事業領域をカバーする企業としての存在感を高める狙いもあると考えられます。リタリコはこれまで障害福祉・就労支援といったサービスプロバイダー的な立場や学習支援事業などを主力としていましたが、ソフトウェアによる業務支援や請求支援システムを押さえることで、業界全体のDX化をリードするポジションを確立できる可能性があります。また、福祉ソフト側にとっても、リタリコのように手広く福祉サービスを展開する企業体の下で事業拡大を目指すことは、スタートアップとして次の成長フェーズに進むための大きな後押しとなるでしょう。
福祉ソフトが提供する「かんたん請求ソフト」や「かんたん介護ソフト」は、その名のとおり使いやすさを重視した設計が特徴です。障害福祉施設や介護福祉施設の現場では、事務担当者が必ずしもITに精通しているわけではありません。そこで、直感的にわかりやすい操作性が求められます。そのうえ、請求書作成に関わる細かな法定要件や加算要件の設定を自動化・半自動化してくれる機能は、事務ミスの防止だけでなく、職員が利用者支援により多くの時間と労力を割けるようになる点が評価されています。とくに煩雑になりがちな加算要件の反映や請求書類の整合性チェックがシステム内で完結することは、ミスのリスクを抑えるだけでなく、スタッフの精神的負担の軽減につながるため、大きなアドバンテージといえます。
今回の買収後、福祉ソフトのブランドや主力製品の名称がどのように扱われるかは現時点では明らかにされていません。一般的には、買収先のクラウドソフトウェアは自社ブランドとしてリブランディングされるケースもあれば、従来のブランドを維持して事業を拡大するケースもあります。リタリコとしてもしばらくは福祉ソフトの既存ユーザーへの影響を最小限に抑えたいと考えているはずですので、急激なブランド統合は行わず、現場で使い慣れている現行のサービスを継続して提供する可能性が高いでしょう。システムを使う現場からみて、「サービス名が急に変わる」ことは混乱を引き起こしかねないため、段階的な移行を検討するのが自然と考えられます。
本件で注目したいのは、リタリコが掲げる「障害のない社会をつくる」というビジョンと、この買収がどう結びつくかという点です。障害のある方や高齢者の方を支援する福祉サービスの充実に向けては、現場スタッフの業務負担を軽減し、専門性を要するケアやリハビリ、コミュニケーションに集中できる環境を整備することが欠かせません。システムによる請求管理やデータ管理がスムーズになるほど、利用者のケアという本来の業務へ余力を振り向けることができます。この視点に立つと、リタリコが福祉ソフトを取り込むメリットは大きく、経営という側面だけでなく利用者支援の質向上にも寄与する動きと言えそうです。
リタリコは今後、福祉ソフトが有するSaaSソリューションの強みを生かしつつ、介護や障害福祉だけでなく就学支援・学習支援などの領域でも、新たなサービス開発に乗り出す可能性があります。たとえば、施設内で蓄積された利用者のデータをもとにサービス品質を客観的に評価し、より個別化された支援計画づくりに役立てるといった取り組みも期待できます。現代における福祉サービスは、支援計画データやモニタリングデータの分析を通じて、適切なアセスメントを行うことが求められており、システムインフラが整備されればされるほど、より高度な福祉サービスが実現しやすくなるはずです。
今回の子会社化によって、リタリコと福祉ソフトがともに持つ知見やリソースが融合することで、福祉領域全体のDX推進に大きく寄与することが期待されます。SaaSとしてのサービスを扱う企業が増える中、先行して市場を押さえ、利用者ニーズを正確にキャッチアップできる体制を築くことは、企業としての競争力アップにも直結するでしょう。さらに、自治体や行政との連携を深めることで、小規模施設や地域密着型事業所に対してもシステム導入のハードルを下げ、情報化を後押しできる余地があります。
リタリコは、こうした幅広い展開を通じて「障害のない社会をつくる」という企業価値の実現をより強固にしていくとみられます。社会全体が高齢化や多様化へ向かう中で、福祉サービスの質を高めることは喫緊の課題です。そのためには、従来のようなマンパワーに依存した仕組みに加え、デジタル技術を積極的に活用して業務の効率化とサービスの高度化を同時に進めていく必要があります。今回の買収劇は、その大きな一歩と言えるでしょう。
このように、リタリコによる福祉ソフトの全株式取得は、福祉サービスを取り巻く環境をさらに変革させる可能性を秘めています。10億5000万円という投資額の大きさにも現れているように、障害福祉施設向け公費請求支援ソフトのトップシェアを誇る企業の技術力と実績を高く評価していると考えられます。今後、両社のシナジーが具体化する過程を通じて、福祉現場の働きやすさとサービス受給者の満足度がどのように向上していくか注目していきたいところです。リタリコの成長だけでなく、国内福祉業界全体の活性化に寄与する取り組みとなることが期待されています。