ケア21は2019年12月2日を予定日として、障がい者の就労移行支援事業を手がける株式会社かがやく学び舎(東京都江東区)の、全保有株式の50%にあたる株式を共同出資者である個人の野口氏(東京都江東区)に譲渡することを決定いたしました。かがやく学び舎は、障がい者の社会参画や職業能力の向上を目指し、2017年6月にケア21と野口氏が折半出資で設立した会社です。このたび、野口氏から事業承継を行いたいという意向が示されたことを受け、株式譲渡に合意したという経緯があります。譲渡価額は500万円となり、予定日に向けて手続きが進められています。

本記事では、かがやく学び舎の設立背景や事業内容、業績の状況、そして今回の株式譲渡に至るまでの流れや意義についてより深く掘り下げて考察してまいります。

■ かがやく学び舎の設立背景
かがやく学び舎は、障がいをお持ちの方々が自分らしく働き、社会のなかで役割を担うための就労移行支援を行うことを主目的としています。障がい者就労に向けた支援が求められている現代の日本社会では、企業や自治体、医療・福祉関連機関などが連携してサポートを拡充していく必要があります。そうした社会的要請に応えるべく、介護事業大手のケア21と野口氏が手を組み、一人ひとりの特性に合わせた支援サービスを提供できる体制を整えようとしたのが、かがやく学び舎設立の大きな経緯です。

2017年6月に設立された当初から、障がいをお持ちの方々へ職業訓練や就労に関する各種相談・支援を提供しています。就労移行支援事業は、具体的にはパソコン操作や事務作業のスキルを習得するプログラム、コミュニケーション能力やビジネスマナーを身につけるトレーニングなど、多角的なカリキュラムを通して就職への道のりをサポートする事業です。利用者の方が職場で活躍するための「橋渡し」となることを目的に、かがやく学び舎では専任のスタッフが結集して取り組んでいます。

■ 事業内容と特色
かがやく学び舎が展開する就労移行支援事業は、「利用者の強みを伸ばし、生き生きと働ける場を創出する」という点を重視していることが特徴です。多くの事業所では、一般的な事務や清掃業務などを想定した実習やトレーニングを実施しています。しかしかがやく学び舎は、利用者それぞれの障がい特性や得意分野、将来の希望に寄り添うことで、より細かくカリキュラムをカスタマイズできるよう取り組んできました。

また、同社のスタッフは介護・福祉の実務経験者や、障がい者雇用の現場を熟知するメンバーが多数在籍しているとされます。多職種連携をはかりながらサポートを進めることで、利用者の方が就労前に抱えている不安を解消し、各々に合った適切なペースでスキル習得が進むよう配慮されています。スタッフ間の連携はもちろんのこと、地域の企業や行政とも積極的に連携を図ることで、せっかく身につけた技術や能力を実践で活かせる環境を確保しようとしてきました。

■ 業績と財務状況
公表されている数値によれば、かがやく学び舎の2019年時点における売上高は319万円、営業利益は△2,383万円(マイナス2,383万円)、純資産は△1,824万円(マイナス1,824万円)という状況にあります。いわゆる長期的な視点で支援体制を整備する必要がある就労移行支援事業では、立ち上げから間もない数年間は先行投資や運営コストがかさむために赤字となるケースが珍しくありません。利用者を獲得し、事業そのものが軌道に乗り、さらに安定した補助金や就労先企業との連携体制が確立できるまでには時間を要するのが一般的です。

ただし、かがやく学び舎の場合は大手介護事業者のケア21と個人出資者が折半で立ち上げたという背景があったため、初期投資に一定の体力が確保されていたともいえます。ケア21が培ってきた介護・福祉事業のノウハウやネットワークも活用できるため、長期的には긍정的な方向に進むことが期待されていました。しかし、実際には売上面で想定していたほどの成長が得られず、事業としての安定化にはもうしばらく時間が必要であるという状況に差し掛かっていたようです。

■ 野口氏への株式譲渡の経緯
今回、ケア21が全保有株式の50%を譲渡することを決定した背景には、共同出資者である野口氏の事業承継意向が挙げられます。共同で事業を始める場合、当初は互いに同じ方向を見据えていても、事業環境や資金状況、経営方針などの変化により、中長期的な計画を修正せざるを得ないケースは少なくありません。その過程で、出資比率や経営上の意思決定権について検討することは、よくあることだといえます。

特に、就労移行支援事業のように公共性が高く、人材育成や社会的インフラに関わる領域では、経営の方針が合わないままに事業を続けることが利用者や従業員にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、早い段階で具体的な対応策を検討し、適切な形で事業を承継するほうが、長期的にはプラスになることも多いのです。今回の株式譲渡も、野口氏が主体的に事業運営を行うことで、より柔軟かつ迅速な経営判断が可能となり、利用者への支援を強化できるとの見通しが背景にあると考えられます。

■ 譲渡価額と譲渡予定日
今回の譲渡価額は500万円とされており、かがやく学び舎の現状や将来性、さらには支援事業の公的補助の見込みなど、さまざまな要素を考慮して算定されたものと推測されます。赤字決算ではありますが、障がい者就労支援のニーズそのものは社会的に非常に高まっており、市場が拡大傾向にある点や、会社の培ってきた実務ノウハウやノウハウ継承などの無形資産も考慮されている可能性があります。

譲渡予定日は2019年12月2日とアナウンスされています。株式譲渡は契約締結に加え、資金の受渡し、名義変更などいくつかのステップを経て完了します。両当事者の合意が得られ、必要な手続きがスムーズに進めば、予定日通りに手続きが完了する見通しです。事業承継後は野口氏が株式の過半数を保有することになり、かがやく学び舎の実質的な経営権を掌握する形となります。

■ 今後の展望と課題
障がい者就労移行支援事業は、国や自治体が就労を促進する制度を拡充していることもあり、今後も一定の需要が見込める分野です。ただし、障がいのある方一人ひとりに必要な支援は多岐にわたるため、きめ細やかなサービスを提供しつつ事業を継続的に維持していくには、運営体制の強化と財政面の安定化が欠かせません。

野口氏が今後、かがやく学び舎のサービスをどのように拡充し、利用者の就労支援をより充実させていくのかが注目点となります。就労先とのマッチングをより強化するために、地域企業との連携を広げていくことも一案です。また、ICTを活用した遠隔支援やオンライン研修など、新たな学びの場を提供することも今後の選択肢として考えられます。

一方で、ケア21としては今回株式を譲渡することで、かがやく学び舎の経営から一歩引いた形になることが予想されます。とはいえ、ケア21が長年培ってきた業界での実績やネットワークは大きな資源であり、今後も何らかの形で協力関係が継続していく可能性はあるでしょう。ただし、共同経営の形を変化させるということは、意思決定プロセスや経営ビジョンの共有といった点で課題が浮上する場合もあります。野口氏とケア21の関係については、譲渡後の動向にも注目が集まります。

■ まとめ
以上のように、かがやく学び舎が直面している状況や、今回の株式譲渡がいかにして決定されたかについて見てきました。同社の売上規模や収益性の面ではまだ成長の余地があり、赤字を抱える財務状況が続いています。しかしながら、障がい者就労支援という事業自体は今後も社会的意義が高いと考えられる分野であり、多くの事業所が検討を重ねながら日々サービスの拡充に取り組んでいる実態があります。

株式譲渡によって、かがやく学び舎の経営権は野口氏が実質的に掌握することになります。より機動的な運営を目指すことで、利用者のニーズに合ったきめ細やかな支援を展開し、社会的価値を高めていくことが期待されます。一方、譲渡元であるケア21にとっては、今回の意思決定を通じてコスト構造や事業ポートフォリオの再編、さらにはリスク分散を図る意図があるのかもしれません。

いずれにせよ、障がい者就労移行支援を取り巻く課題は、まだまだ社会全体で取り組むべき点が数多く残されています。利用者一人ひとりの特性を理解し、個別最適な支援を続けることで、障がいを理由に就職をあきらめることなく、それぞれが能力を最大限に活かせる社会を創っていくことが大切です。かがやく学び舎が新たな体制のもとで、より強固な支援体制を確立し、多くの方々を就労へと導いていくことが期待されます。

今回の譲渡を契機として、かがやく学び舎がいかに業績を改善し、社会における存在感を高めていくのか注視していきたいところです。ケア21や野口氏だけでなく、公共機関や地域企業、さらには利用者やその家族の視点も踏まえながら、多方面との連携を深めていくことが、今後の事業の発展に大きく寄与するでしょう。障がい者就労の場を広げ、真にインクルーシブな社会を実現するための重要な一歩として、今回の株式譲渡がどのような成果を生み出していくのか、引き続き見守りたいと思います。