キャリア株式会社(以下、キャリアといいます)は2018年に、人材サービス事業を展開する株式会社キューボ(以下、キューボといいます)の株式を過半数取得し、子会社化することで基本合意したと発表いたしました。取得予定日は2019年1月1日であり、株式の取得割合や取得額などの具体的な数値については非公表とされています。キャリアは急速に進む高齢化社会に対応する「高齢化社会型人材サービス企業」として、シニアワーク事業とシニアケア事業を中核に据えており、キューボの子会社化によってさらなる事業拡大と人材確保を図る狙いがあるとみられます。以下では、この取引の概要や背景、そして今後想定される影響について深掘りしてご説明いたします。

まず、キャリアが手がけるシニアワーク事業は、高齢者が定年退職後も活躍し続けられる就労機会を提供するものです。少子高齢化が進む日本においては、職場を離れた後でも「まだ働きたい」「社会の役に立ちたい」と考えるシニア層の声は大きく、企業側から見ても経験豊富な即戦力として期待できる場合があります。しかし、高齢者雇用に対して十分な環境整備や情報発信が行き届いていないことも多く、企業とシニア層のミスマッチが生まれやすいという課題がありました。キャリアのシニアワーク事業は、こうした問題に対して「シニア専門の求人サイトの運営」や「シニア向けの転職支援サービス」を通じて、企業とシニアをつなぐ役割を担ってきました。その実績により、多くのシニアが活躍する就労機会の創出に寄与しています。

一方、キャリアのシニアケア事業は、主に介護施設を中心とした医療・介護の現場へ看護師や介護士などの資格保持者を派遣・紹介する事業です。厚生労働省の試算によると、団塊の世代が後期高齢者となる2025年頃には、さらに多くの介護人材が必要となる見込みであり、介護職・看護職は職場間の人材争奪戦がますます激化すると考えられています。このような時代背景の中で、キャリアは人材派遣や人材紹介の手法を用いて、必要な人材が必要な現場へスムーズに供給される体制づくりに取り組んできました。高齢化が加速する社会において、介護業界の活況と人材不足は同時進行しているため、人材サービス企業としてのキャリアの果たす役割は非常に大きいものとなっています。

さて、キャリアが子会社化を決めたキューボは、主に人材サービス分野で多彩なソリューションを提供してきた企業です。キューボが保有する販路や顧客基盤、ノウハウは、キャリアのシニアケア事業との親和性が高いと考えられています。特に、介護・看護業界では人材の獲得競争が激化し、職場環境の改善や待遇の見直しなど企業間の差別化が顕著になってきました。こうした状況下で、キューボの持つ顧客開拓力やコーディネート力と、キャリアのシニアケア事業で培ってきた専門性やシニア向けの就労支援サービスをかけ合わせることで、より魅力的な事業領域の拡大が期待できるのです。

実際、キューボの子会社化により、キャリアが扱う人材派遣・紹介の領域がさらに広がり、多様な介護施設や病院との取引増につながりやすくなることが予想されます。また、キューボ自体の事業ポートフォリオが強化されることで、より包括的な人材サービスの提供が可能になるでしょう。具体的には、新たな人材確保のルートが増えたり、研修・育成支援の知見を共有したりすることで、より質の高い人材を継続的に供給できる体制を構築しやすくなるとみられます。

加えて、シニアワーク事業との間にもシナジー(相乗効果)が期待されています。高齢者が働ける場を広げる上では、企業側にとっては「豊富な現場経験やコミュニケーション力をもつシニア人材を、どのようなタイミングでどの職場に配置すべきか」というマッチングが鍵を握ります。一方、職種としては比較的若手が多いとされてきた介護士や看護師の現場にも、シニア経験者が何らかの形で貢献できるケースは考えられます。例えば、ヘルパーとして直接介護にあたるだけでなく、施設利用者との会話や生活サポートを担うポジション、あるいは精神的ケアを支える役割など、多様な働き方が模索されています。キューボが有するネットワークとキャリアのシニア向けサービスを組み合わせることで、これまで十分にカバーできなかった領域へのアプローチも可能となるでしょう。

さらに、人材業界全体の視点から見ると、新卒採用だけでは担い手が不足する介護・看護分野において、即戦力として働ける人材を確保することは引き続き重要な課題です。シニア層の労働参画はこの課題を緩和する一手段となり得るため、企業側も積極的にシニアを迎え入れる体制づくりを進めています。しかしながら、医療・介護現場では専門知識やスキルが求められる場面も多く、実務経験の浅い人材に対しては十分な研修機会や受け入れ態勢が必要となるなど、解決すべき課題が山積みです。キャリアはこれまで築いたノウハウを活かし、キューボとの協業によってより充実した研修プログラムやキャリア開発支援を提供できる体制を目指すと考えられます。

このように、キャリアによるキューボの株式取得・子会社化は、シニアケア事業の拡大や人材確保の強化を軸としながら、長期的には人材不足が深刻化する日本社会への貢献を視野に入れた戦略的動きといえます。少子高齢化の進行に伴い、就労環境やライフスタイルの在り方は今後ますます変化していくでしょう。特に介護や看護の現場では、テクノロジーによる省力化が進む一方で、人間対人間のケアを求める声も依然として根強く、こうした人間力が求められる分野においてキャリアの事業はますます重要性が高まるとみられます。

また、この子会社化と同時に、キャリアの経営判断には株主や投資家からの視線も注目されます。企業としては事業の成長性や財務的な健全性をどのように担保するかが問われるところですが、シニアワーク事業とシニアケア事業はいずれも今後の需要拡大が見込まれる分野です。そのうえでキューボを取り込み、多角的な人材サービスを展開することにより、人材の安定的な供給体制を整えられると判断したのだと考えられます。株式取得割合や取得額などは公表されていないものの、この点からもキューボとのシナジーを早期に実現することが、キャリアにとって最優先事項であったことがうかがえます。

結果として、介護・看護業界全体の人手不足対策だけでなく、高齢者の活躍推進にもつながる可能性のある今回の子会社化は、多方面にとって注目すべき動きといえるでしょう。高齢者が地域社会や企業社会で自分の経験を活かしながらやりがいを持って働くことで、定年後の生活を充実させることはもちろん、人材不足の課題を抱える業界にとっては優秀な労働力を得るチャンスでもあります。シニアが活躍できる場を創出し、かつ医療・介護現場の支援を強化するという二重の目的を果たすうえで、キャリアとキューボの統合的なサービスは今後ますます需要が高まると期待されます。

とはいえ、シニア市場は非常に多様であり、健康状態や学習意欲、経済的事情など、個々の状況によって求められる支援の形は異なります。一方で介護・看護業界の需要は地域や施設種別によって異なり、資格や経験年数などの条件面もさまざまです。そのため、両社が連携して高齢者向けの新サービスを拡大するには、細やかなマッチングシステムの構築や各施設のニーズの把握といった地道な取り組みが欠かせません。今後、業界や社会の動向を注視するなかで、キャリアとキューボは共同の研究・開発や営業活動を通じてさらなる相乗効果を追求していくことでしょう。

まとめますと、キャリアによるキューボの株式取得・子会社化という決断は、高齢化社会型人材サービスを標榜するキャリアがシニアワーク・シニアケア両事業をさらに発展させるための大きな一歩であると考えられます。少子高齢化による労働力不足が深刻化する今、シニア世代の活用と介護・看護現場への人材供給の強化は社会的にも重要性が高まっており、両社が互いのリソースを活かして新しい価値を提供することへの期待が寄せられています。2019年1月1日に予定される子会社化完了後は、顧客やサービス利用者に向けてより幅広いソリューションを展開し、人材市場全体の課題解決に貢献していくことが期待されます。この取り組みが日本社会の持続可能な成長と、高齢者が生き生きと活躍できる社会基盤づくりに寄与していくことを願ってやみません。