エン・ジャパンは、外国人向け求人事業を手がける株式会社JapanWork(本社:東京都港区)をグループ傘下に取り込むことを決議し、新たな人材サービス領域への進出を強化する方針を示しました。JapanWorkは2016年2月に設立され、外国人向けの求人一括検索サイト「JapanWork」を運営するほか、2018年12月からは企業と言葉の壁がある外国人とのやり取りを代行するチャットコンシェルジュサービスを提供しています。エン・ジャパンはJapanWorkの株式51%をまず取得し子会社化し、さらに2022年には株式交換により残る株式を追加取得して完全子会社化する計画です。第一段階の株式の取得価額は2億3400万円、取得予定日は2019年7月12日とされています。
JapanWorkの2018年度の業績は、売上高1600万円、営業利益はマイナス1900万円、純資産100万円と報じられています。設立から日が浅いスタートアップでありながら、外国人向けの求人マッチングという新たな領域に挑んできました。同社の強みは、サイトを通じて求人情報を一元的にまとめ、外国人にとって探しやすいインターフェースを提供する点に加え、企業側が抱える言語面の懸念を解消するチャットコンシェルジュサービスを展開している点にあります。こうしたサービス提供が評価され、清掃や工場系派遣企業をはじめとした顧客を獲得しつつあります。
背景には、2019年4月に施行された改正出入国管理法があります。日本では労働人口の減少を補うため、外国人の受け入れを拡大する政策が進んでいる状況です。特にホテルや飲食業界、あるいは清掃や軽作業、工場系などの現場は慢性的な人手不足に悩んでおり、外国人の労働力に期待が高まっています。改正出入国管理法により、これまで認められなかった単純労働者への就労ビザが特定技能として付与されるようになり、関連業界の採用ニーズは急速に拡大することが見込まれます。
エン・ジャパンは、総合人材サービス企業として長年にわたり求人サイトや人材紹介、人材派遣など幅広い事業を展開してきました。一方で、外国人労働者受け入れのための専門サービスマーケットは、まだ大手企業の参入が少なく、ニッチな市場と見なされがちでした。しかしながら、今後の在留外国人数増加や労働市場の変化を見越し、早期に外国人採用サービスを強化することで、エン・ジャパンとしては、人材ビジネス市場でのさらなる優位性を確立しようとしています。
今回のJapanWorkの子会社化は、そうした戦略の一環といえます。エン・ジャパンが得意とする人材紹介や求人メディア運営でのノウハウと、JapanWorkが持つ外国人向け求人の知見や言語サポートノウハウを組み合わせることで、両社はシナジー効果を生み出すことを狙っています。外国人求職者にとっては、より幅広い求人情報や充実したサポートを得られるようになり、企業側も国内外の多様な人材を効率的に採用できるプラットフォームが整備されることになります。また、外国人労働者向けの生活支援や日本語学習支援など、マッチング以外の周辺サービスも拡充する余地が広がると考えられています。
さらにエン・ジャパンは、今回の51%の株式取得だけに留まらず、2022年には株式交換により残りの株式を追加取得し、JapanWorkを完全子会社化する計画を公表しています。部分的な資本参加ではなく、グループ全体として一体運営を進める方針を示すことで、より迅速な経営判断やサービス開発、投資が行いやすくなるメリットがあります。一方のJapanWork側としても、エン・ジャパンのブランドや資本力、全国的な試験導入・拠点網などを活用できるため、事業スケールの拡大を加速することができそうです。
このように、改正出入国管理法後の外国人労働市場は需要が急速に伸びており、同市場ではさまざまなプレイヤーが新サービスを打ち出しています。例えば、大手求人サイトも外国人向けのページを設けたり、日本語・英語対応のコールセンターを整備したりと、サービスの多言語化・多国籍化を進めています。その中でJapanWorkは、創業当初から「外国人向け求人を一元化し、選びやすい環境を作る」という明確なコンセプトを掲げチャレンジしてきました。この取り組みは企業側にもメリットが大きく、特に語学力やビザ関連の手続き、文化的な違いへの理解が必要な場面で、JapanWorkのチャットコンシェルジュサービスは業務を代行し、売り手・買い手双方の負担を軽減してきました。
また、清掃業界や工場系派遣企業といった領域は、日本人の労働力だけでは補いきれない需要がある一方で、求人情報だけを掲載しても外国人求職者とのミスマッチが生じやすいという課題がありました。そこをJapanWorkでは、広告作成時の外国語対応や、初期のコミュニケーション支援まで手厚く行うことで、企業にとって初めての外国人採用のハードルを下げることに成功しています。言語や文化の違いがある外国人労働者の受け入れをスムーズにするためには、こうしたトータルサポートが重要であると再認識されています。
エン・ジャパンにとっては、国内採用支援事業で培った大手企業や中堅・中小企業との取引基盤を活かしつつ、外国人労働マーケットをカバーするサービスラインナップを拡充する格好となります。企業の人材確保において、日本人労働者の不足がますます深刻化する中で、多様な人材プールを提供できる企業が選ばれる傾向が高まっています。特に、観光産業や飲食業などの現場スタッフ不足が深刻な業界を筆頭に、外国人労働者をどう受け入れて組織に馴染ませていくかが、経営上の喫緊の課題として浮上しています。
今後は、政府主導の受け入れ拡大とともに、企業が外国人材を活用する流れが加速することが見込まれます。ただし、受け入れるだけでなく、文化的背景の異なる人材に対するマネジメント手法や生活面・教育面でのサポートなど、多角的な取り組みが求められるようになります。そうした課題に対応するためにも、人材サービス企業は求人紹介だけなく、在留資格の取得支援や生活サポート、研修プログラムなどの総合的なサービスを提供することが理想と言われています。
エン・ジャパンは、今回のJapanWorkとの連携を機に、こうした外国人労働者受け入れサービスを強化するとみられます。JapanWorkがもつ多言語・多文化対応のノウハウは、エン・ジャパンの既存顧客にも応用可能です。両社の統合によって、企業側の外国人採用に関する課題をワンストップで解決できる環境づくりが期待されています。また、新型コロナウイルスや世界的な政治・経済の動向によって一時的な停滞があったとしても、長期的には人材のグローバル化は避けられない流れと予測されます。その中で、日本市場のニーズに合わせてサービスを柔軟にブラッシュアップしていくことが、企業としての持続的発展につながるでしょう。
以上のように、エン・ジャパンによるJapanWorkの子会社化は、日本国内の外国人労働者市場におけるサービスを拡充し、深刻化する人手不足や多国籍人材の受け入れニーズに対応するための大きな一手となります。段階を経て最終的には完全子会社化を進めることで、両社の経営資源やノウハウを統合し、総合的人材サービスを展開していく方針が示されています。今後、外国人労働者数が増え続けると想定される日本において、エン・ジャパンとJapanWorkの取り組みがどのように業界をリードしていくのか、企業の人事戦略や外国人材の働き方にも影響を与える存在になりそうです。今後の展開が注目されます。