じげんは2018年12月、採用管理クラウドシステムを手がけるマッチングッド(東京都港区)の全株式を取得し、子会社化することを発表いたしました。マッチングッドは人材紹介・人材派遣会社や一般企業の採用担当者向けに、基幹クラウドシステム「matchingood(マッチングッド)」を提供しており、260社にのぼる顧客基盤を築いている企業です。今回の子会社化により、じげんは新たなクライアントの獲得や商品ラインナップの拡充を目指すとともに、自社で運営するメディア事業とのシナジーを図り、求職者・就労者の集客から採用、さらには就業管理までを一元的に提供できるサプライチェーンの構築を目指すとしています。なお、取得価額は非公表とされており、取得予定日は2019年1月4日というスケジュールが公表されています。

しかし、プレスリリースや報道ベースで伝えられている情報だけでは、じげんによるマッチングッド子会社化の背景や、今後の市場に与える影響について、十分に理解できない面もあるかもしれません。そこで本記事では、じげんが掲げるビジネスモデルとマッチングッドが有するサービスの特徴、さらには本件がもたらすシナジーや今後の人材・採用管理市場の展望を、できる限り深掘りしてご紹介いたします。

まず、じげんの事業内容や強みについて改めて振り返ります。じげんは「ライフメディアプラットフォーム」の構築を標榜し、求職や住まい、自動車の売買など、人々の生活のさまざまな場面における検索・マッチングサービスを提供してきました。インターネット広告収益や、運営メディアを通じたユーザーとのコミュニケーションによって成長を遂げ、上場企業としてさらなる拡大を図っています。その一環として、近年ではM&Aや子会社化を積極的に行い、新規領域や新たな顧客層を取り込んできました。今回のマッチングッド子会社化も、じげんが従来から力を入れてきた「採用・転職」周辺事業の拡充を目的とした戦略の一部と考えられます。

一方、マッチングッドが提供するクラウドシステムは、人材紹介会社や人材派遣会社、企業の採用担当者などが活用するプラットフォームです。求職者のプロフィール管理、応募情報の一元管理、選考の進捗管理など、採用活動に必要な機能が揃っており、ITシステムを活用した効率的な業務運用を実現するメリットがあります。近年、人材紹介会社は企業とのやり取りを円滑にして、求職者とのマッチング精度を高める必要性が高まっています。労働力不足が叫ばれる日本では、多様な就業形態や働き方に応じた人材の紹介ニーズが急激に拡大しており、既存の業務管理では追いつかない複雑なオペレーションが発生するケースも増えています。こうした背景下で、採用管理をシステム化し、各種データを一元的に管理するソリューションの重要度は益々高まっているのです。

特に、近年の人材業界では“採用管理システム(ATS: Applicant Tracking System)”の導入が急速に進んでいます。従来は企業単位でエクセルやメールを使いながら応募者情報を管理し、紙の履歴書をファイリングするような方法も一般的でした。しかし応募者数が増え、採用フローが複雑化するなかで、効率性の面だけでなく、個人情報保護やコンプライアンスの点でも課題が顕在化してきました。マッチングッドの「matchingood」は、こうした課題を解決するために、シンプルなUIでありながらも機能性に優れた管理体系を提供し、企業や人材サービス事業者から一定の支持を得てきました。すでに260社に上る顧客基盤が確立されているというのは、この成長市場において注目すべき実績と言えます。

今回の子会社化によるシナジーとして、じげんが運営する求人メディアや就職情報サイトなどで集客されたユーザー情報を、「matchingood」を介して人材紹介会社や企業へ連携するスキームが想定されます。たとえば、じげんのメディア経由で求人募集を行う企業が増え、応募者情報がスムーズに「matchingood」に取り込まれるようになれば、企業・人材会社の採用活動における利便性が高まり、結果としてじげんのメディア利用企業や利用者も増加する可能性があります。また、採用活動の管理のみならず、就業後の労務管理やスケジュール管理まで一括で行う機能も、今後拡充していく構想があるかもしれません。とりわけ、就業前後の手続きや入社後のフォローアップなども含め、さまざまなステージでデータ連携が可能となれば、人材サービス業界に新たな付加価値をもたらすでしょう。

加えて、じげんが掲げる長期的なビジョンとしては、求人広告やメディア運営のみならず、求職者のキャリア形成を支援するコンサルティング領域、さらにはHRテックの研究・開発を通じた新しい採用手法の提案など、多方面への事業展開が考えられます。今回のマッチングッド子会社化は、こうしたビジョン実現に向けた大きな一歩となり得るのではないでしょうか。今後はマッチングッドのサービスをじげんのグループ内リソースと統合することで、顧客社数や紹介件数の拡大、システムの機能連携、さらにはデータ分析による業務効率化支援など、多角的なシナジー効果が期待できます。

一方で、市場全体を見渡すと、採用管理システムの分野は競合プレイヤーも少なくありません。大手人材サービス会社やITベンダーの多くが自社システムを開発・提供しており、スタートアップ企業もクラウドサービスを武器に最新テクノロジーを取り入れたATS(Applicant Tracking System)をリリースしています。そのため、マッチングッドが保有する既存顧客260社の維持と新規顧客獲得が鍵となるでしょう。とりわけ、クラウドシステムの機能群や操作性、サポート体制といった要素は、競合他社との差別化に直結する重要なポイントです。じげんグループとしては、マッチングッドのシステム開発力と、じげんが持つメディア運営力・マーケティング力の統合を盤石なものにしていくことが必要になります。

また、M&Aには組織統合の課題がつきものです。事業方針やカルチャーの融合、情報システムの連携、法務・会計面での連結対応といった実務的な調整が発生し、短期的にはコストや手間が増加する可能性があります。しかし、じげんはこれまでにも複数の企業を買収・子会社化しており、一定のノウハウを蓄積してきたと考えられます。今回のマッチングッドとの統合においても、過去の経験を活かしながらスムーズに連携が図られることが期待されます。

さらに、採用管理や就業管理という分野は、一度システムを導入すれば長期間にわたり使い続けることが多く、乗り換えに手間とコストがかかるため、ストック型の収益が期待できるビジネスモデルです。継続的なサービス利用のために、契約更新やサブスクリプションモデルによる月額費用が見込めるというメリットがあります。じげんはすでに多様なインターネットサービスを展開しており、定期的な広告収入や利用料金などのストックビジネスを組み合わせることで、経営の安定と収益拡大を図ることが可能になるでしょう。

今後の人材市場は、少子高齢化による労働力不足が加速するなかで、より効率的かつ付加価値の高い採用・就業管理の仕組みが求められるようになります。さらに、2020年以降に広がりを見せたリモートワークやオンライン面接などの普及によって、採用活動はオンライン主流へと転換していく流れがあります。こうした動きは、企業が採用管理システムを導入するインセンティブを高める要因となっています。じげんのメディア力とマッチングッドのシステムが結び付くことで、オンライン面接から内定通知、入社手続き、入社後のオンボーディングまで一元管理する包括的なサービスが誕生すれば、多くの企業や人材紹介会社にとって魅力的な選択肢となるのではないでしょうか。

総じて、じげんによるマッチングッド子会社化は、単なるM&Aによる規模拡大ではなく、新たなサービス連携やビジネスモデルの強化を目指す戦略投資と捉えられます。すでに確立されている「matchingood」の顧客基盤と、じげんが持つ多彩なメディアやマーケティングチャネルが融合することで、人材紹介業界や企業の採用担当者の業務効率化に貢献すると同時に、求職者や就労者にもシームレスな転職・就業体験を提供することができるでしょう。

一方、企業統合の成否は、じげんとマッチングッドがどれだけスムーズな連携を行い、相互の強みを本当に最大化できるかにかかっています。システム的な統合だけでなく、社内のコミュニケーションや企業文化の共有、顧客ニーズへの柔軟な対応など、多角的な努力が必要です。今後も業界動向を注視しつつ、じげんグループがどのようにサービス拡張を進めていくのか、その成果が具体的に現れるのを期待したいところです。

以上のように、じげんのマッチングッド子会社化は、人材紹介・採用管理市場における新たな価値提供を目指すうえで大きな意味を持つ決断だと考えられます。2019年1月4日の取得予定日を経たのち、どのように業務統合が進み、実際にどの程度のシナジーが創出されるのかは、今後の展開に注目すべきポイントです。少子高齢化や働き方改革といった社会的な潮流のなかで、企業や人材サービス会社の「採用管理の効率化ニーズ」はますます高まることが予想されます。じげんとマッチングッドの協業が、このニーズに的確に応え、双方のビジネス拡大に寄与することを期待しております。